これからの相続税対策の考え方

これからの相続税対策の考え方

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相続税や民法の相続法改正が続き、相続や相続税対策に関する記事を見る機会が多くなりました。親族の不幸があっても、これまでは多くの人が相続税のことを考えなくてよかったのですが、最近の法改正によって相続税の申告をしなければならない人が増えました。そこで今回は、相続税対策を行う上で注意をしなければならない点について説明します。

相続税対策について

相続税対策について

 

まずは言葉などの整理をしましょう。
相続対策は、被相続人の意思として財産や債務を誰に引き継いでもらうかを考えていくことです。生前贈与をして被相続人の意思に沿った相続の流れを作っていったり、財産の分割を金額的な平等ではなく、被相続人のそれぞれの財産ごとの状況を加味してバランスを取った分割になるような遺言書を作成したりします。相続発生後に財産を手放さなくて済むことを前提に対策していくことが多いです。

 

なぜ相続税対策をするのか

相続税対策は、主に相続税をできる限り少なく済むようにすることが目的で、相続税の特例を適用できる状況を作ったり、収益不動産を借り入れで購入したり、生前贈与を行っていったりします。納税資金を用意することも相続税対策の1つです。相続対策も相続税対策も、通常は被相続人が行います。

 

では、どうして相続税対策をするのでしょうか。
法人税は会社自身で決算を決めて、毎年決めた時期に決算を行い、法人税の申告をします。所得税は毎年1月から12月までの課税所得を計算して、翌年3月15日までに申告します(2022年現在)。

 

どちらもお金が動いたり、財産価値が増加したりなどの利益に対しての課税です。締めの月が決まっていて、法人税や所得税の納税者がその年の状況をリアルタイムに計算していくことが可能で、税金対策のために投資をしたり、予測される納税資金を確保したりしておくことができます。

 

これに対して相続税は、被相続人の死亡がスタートになり、突然、相続人が納税者となって、申告納税の義務が発生します。

 

したがって、被相続人の死亡後に遺産の多寡を相続人が知ることになります。相続人が被相続人の生前中に財産債務の状況を何も知らなかった場合には、相続人はどんな財産や債務があるかを調べることから始まり、すべての調査が終わった結果、換金しにくい財産ばかりであったために納税資金を用意できず、「こんなはずじゃなかった」ということになりかねません。

 

先祖から所有してきた財産、自分が苦労して増やしてきた財産の一部が、自分の死亡をきっかけに相続税の納税で失われてしまうことを回避しようと考えるのは普通のことでしょう。そこで生前中に相続税対策を検討して計画し、進めていくわけです。

 

暦年贈与について

相続税対策は、一度の行為で終えるケースは少なく、多くの場合は長い時間をかけて少しずつ積み重ねていきます。これは、生前贈与で進めることが多いためで、一年間で多額の贈与をしてしまうと、累進税率の高い贈与税を多く納めなければならなくなってしまうためです。このように毎年少しずつ贈与をして財産を移転し、贈与税を納めていくことを「暦年贈与」といいます。

 

相続時精算課税について

現在、「相続時精算課税」という生前贈与のための制度があります。この制度を適用すると、贈与時の贈与税の基礎控除が大きく、税率が一定で暦年贈与ほどの大きな税負担になりません。

 

しかし、精算課税制度の適用届け出を税務署へ提出すると、相続人へ暦年贈与を行うことができなくなったり、精算課税を適用して長く贈与を繰り返してきたことを誰かがしっかり把握しておく必要があったり、小規模宅地の特例が使えなかったり、不動産の登記にかかる登録免許税の税率が高かったりとさまざまなデメリットがあり、現時点ではあまり浸透していません。

相続税制の変遷

相続税制の変遷

 

相続税対策を行っていくときには、相続税改正の動向を把握することが大切です。まずは、これまでの相続税改正の変遷を追っていきましょう。
これまでの相続税の大きな改正は5回です。改正内容は、「基礎控除」「相続税率や税率構造」「配偶者控除」の3つに分けられます。

 

大きな相続税改正は以下の表のとおりです。

 

時期 基礎控除 税率構造 配偶者控除
抜本改革前 2000万円 +法定相続人数×400万円 10%~75% 14段階 遺産の1/2または4000万円のいずれか大きい金額に対応する税額
昭和63年(1988年)12月改正 4000万円 +法定相続人数×800万円 10%~70% 13段階 配偶者の法定相続分又は8000万円のいずれか大きい金額に対応する税額
平成4年(1992年)度改正 4800万円 +法定相続人数×950万円 10%~70% 13段階(前改正よりやや緩和) 変更なし
平成6年(1994年)度改正 5000万円 +法定相続人数×1000万円 10%~70% 9段階(さらに緩和) 変更なし
平成15年(2003年)度改正 変更なし 10%~50% 6段階 変更なし
平成25年(2013年)度改正 3000万円 +法定相続人数×600万円 10%~55% 8段階 変更なし

 

参照:財務省「相続税の改正に関する資料」

このほかに相続税の改正点は、未成年控除や障害者控除、特別障害者控除があります。

 

各改正を見るとわかるとおり、抜本改革前は基礎控除も低く(現在と当時の貨幣価値の違いはありますが)、税率の段階も多く、最高税率も高く設定されていました。その後、平成6年(1994年)度改正までは基礎控除が上がり、税率の段階も減っていき、税率も緩やかに上昇していく緩和の流れが進みました。平成15年改正でも、最高税率は70%から50%に引き下げられ、さらに緩和は進みました。

 

しかし、平成25年改正で基礎控除は大きく下がり、税率の刻みが増え、最高税率も5%上がり、一転増税の方向へ変わりました。

今後考えられる相続税改正

今後考えられる相続税改正

 

平成25年(2013年)度改正とその後の情報では、相続税の税収増加を求めるところは大きく、増税の流れになることは間違いないでしょう。ただ、単純な税率構造を変えるという改正ではなく、課税の方法を変えていく可能性もありそうです。考えられるような改正は次のようなものがあります。

 

暦年贈与の精算課税への取り込み

現在の相続税では、被相続人が亡くなる3年前までに暦年贈与による贈与税の申告があった場合には、これがなかったことになり、相続税の計算に組み込まれます。その場合には、不動産の生前贈与をすると登記費用が無駄になってしまいます。

 

「令和2年度税制改正の大綱」には相続税と贈与税の一体化を目指していることが記載されています。まずは、この贈与税の3年遡りの期間をもっと延ばしていき、暦年課税を精算課税へ組み込んでしまうような仕組みが検討されていると言われています。

 

国は、これまでも教育資金の贈与や精算課税の導入によって、高齢者の財産を若年層へ移転する政策を進めていて、これによって経済の活性化を進めようとしています。暦年贈与についても、平成27年(2015年)度改正で直系尊属からの贈与は特例贈与として、一般贈与に比べて税率の段階が若干緩和されています。

 

暦年課税と精算課税の合流は相続税と贈与税の一体化と同様の動きであり、その方向で進められる可能性は高いでしょう。そのためにも、納税者にとって精算課税が簡単に採用でき、精算課税による生前贈与を進めていった結果が不利にならないような制度に変更されることが求められます。

 

法定相続分課税と遺産取得課税

現在の日本の相続税は、相続人が法定相続分で相続財産を分割したとして税額を計算して、合算して相続税の総額を計算する法定相続分課税という方式を採っています。基本的に1つの相続で1つの申告書を作成します。

 

しかし、この方式は、同じ遺産の額を取得した相続人でも、法定相続人の数や遺産総額によって税額が変わってしまいます。例えば、1億円を取得した相続人がいたとして、遺産総額5億円で法定相続人6人のときの1億円取得の場合の税額は約1760万円であるのに対し、法定相続人1人で遺産総額1億円の場合の税額は1,220万円です。これは課税の公平の面で問題があります。

 

そのために遺産取得課税という方式も検討されました。この方式は、遺産を取得した相続人が取得した財産の額で申告をする制度で、遺産総額や法定相続人数によって税額が変わるということは起きません。しかし、相続税の制度の変更は大きな影響を与えるため、すぐに導入されることはありませんでした。この方式が採用された場合には、これまで行われてきた養子縁組をして法定相続人を増やすことや、負債を増やすことでの相続税対策は根本的に考え直さなければなりません。突然の導入はないでしょうが、導入が検討されている点は覚えておいたほうがいいでしょう。

これからの相続対策の考え方

これからの相続対策の考え方

 

平成25年(2013年)度改正から相続税の課税強化が打ち出され、財政再建や経済政策の面を考えても、増税の方向へ向かうことは間違いないでしょう。遠くない将来に相続税改正が見えているのであれば、長い期間にわたって相続税対策を行っていくのは正しくないと言えます。現在でも3年間の贈与の遡りの制度があるので、3年以内に相続が生じる可能性がある高齢の方や深刻な病気の方は暦年贈与による相続税対策はあまりしていないでしょう。しかし、この先の相続税改正を考えた場合には、元気な方でも5年を越えるような土地の生前贈与の計画は行なわないほうがいいかもしれません。

 

逆に、事業承継や小規模宅地の特例が縮小していくことはないと考えられます。相続人へ事業を受け継ぐ体制を作っていくことや、相続前も後も相続人と被相続人が同じ建物に住み続けるような形態を作っていくことが、これからの相続税対策のひとつとして間違いないと思います。

 

また、相続税対策を行ってきた場合には、今後の相続税対策を毎年確認することも大切です。大きな税制改正がある場合には、少し前から情報が出てくる場合が多いです。改正が行われそうな年には、これまでの相続税対策で問題がないかを見直すことをおすすめします。

 

また、財産の評価額が大きく変動した場合には、最初の計画とはずいぶん違う結果になる可能性があります。まめに財産の評価を行い、最初の計画とズレが出ている場合には、対策を見直すことは大切です。さらに、物価の変動や相続税の細かい改正は十分考えられるので、あまりに細かい対策を考え過ぎて、ほんの少しの税額を減らそうとしても、ちょっとした土地の変動で水の泡になりかねません。あまり詳細な対策は取るべきではありません。

まとめ

法人税も所得税も、増税のために課税の方法を変更していくことは当面ないでしょう。相続税は贈与税も含めた税制改正によって、大きく納税額が変わる可能性があります。まずは、現在の相続税の仕組みをよく理解することが大切です。

 

相続税の理解のないまま、専門家に任せきりの相続税対策はよくありません。どのような対策をしていくのか、対策による報酬はいくらほどになりそうか、対策をやることでのリスクはないのかなどの説明を受け、しっかり理解したうえで進めるように心がけましょう。もし、被相続人が高齢の場合には、安易な契約を結ばないように周りがサポートすることも大切です。

 

執筆者:須栗 一浩 税理士 税理士法人エムエスオフィス 代表
1995年に税理士登録し、これまで個人法人の関与先クライアントは500件をこえる。個人事業の開業から、法人設立、相続税まで含めたトータルのコンサルタント業務をおこなう。企業のICT化も推進し、クライアント企業への導入も進めている。ファルクラム租税法研究会研究員
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