クラウド会計の注意点(経理処理編)

クラウド会計の注意点(経理処理編)

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電子帳簿保存法改正やテレワークの推進から、クラウド会計を中心としたクラウド経理システムへの移行が進んでいます。クラウド経理システムは、インターネットにつながる環境があれば、どこにいても作業ができます。経理の入力作業の省力化を進めることができるなどのメリットがあり、今以上に普及していくことは間違いないでしょう。

 

このようなメリットを持つ半面、まだサービスの提供は始まってそれほど時間が経っていないということもあり、ウィークポイントも少なくありません。今回は、クラウド会計システムの注意点を説明します。

経理でのクラウドシステムの利用シーン

経理でのクラウドシステムの利用シーン

 

「システム編」の記事でも説明した通り、クラウド経理システムは、請求書・領収書のクラウド上で発行・管理・保存を可能にし、ネットバンクからクラウド会計システムへの取引データの自動読み込み、電子マネーの支出データの自動読み込みなどを行うことができます。これを機能的に分類すると、以下の3つに分けられます。

 

① 請求書や領収書の電子発行のようなクラウドシステムで書類の作成・相手先へ送信する機能
② 発行したデータやほかのシステムから受け取ったデータ、紙の書類のスキャンデータなどのクラウド上でのデータ保存
③ 会計システムでのネットバンクなどからの取引データの読み込み

 

経理処理の終わったデータは、そのままクラウドシステムに保存されるので、決算後に書類を保存するために整理し直したりする必要はありません。例えば、これまでの経理では現金で支払った領収書を日付順に並び変え、会計ソフトに入力し、スクラップブックに貼り付けて、決算期ごとにほかの書類と一緒に保管するという作業がありました。

 

クラウド経理システムを利用すれば、クラウドアプリを使い紙の領収書の写真を撮ってアップロードすれば、サービスが内容を読み取って会計データが作成されます。そして、会計システムで仕訳データの内容を確認して登録ボタンを押せば、会計データができあがります。クラウド上には会計帳簿と連携された状態で領収書の写真データが保存されます。経理作業はこの2点だけです。したがって、クラウドシステムを順調に運用していけば、経理作業の効率化は意識することなく進んでいきます。

パソコンインストール型の会計ソフトとクラウド型会計システム

パソコンインストール型の会計ソフトとクラウド型会計システム

 

従来型の会計ソフトは、まず、パソコンへCD-ROMなどからインストールして、ソフトウェア会社へユーザー登録をすることから始めなければなりませんでした。法改正などによりソフトウェアの更新が必要な場合には、その都度バージョンアップ版のCD-ROMが送られてきて、更新作業を行う必要がありました。会計ソフトのバージョンアップがあると、データの更新もする必要があります。さらに、何世代も前のバージョンのデータの場合には更新することができず、せっかくデータが残っていても開くことができないことも多くありました。パソコンを新しくした場合には、会計ソフトの新規インストールから始めなければならず、ソフトによっては購入し直す必要があるものもありました。

 

また、会計データは経理担当がこまめにバックアップを取る必要があり、決算を終えたデータは会社で決めたハードディスクなどに保存をして、なくならないように保存しておくことが重要でした。このように経理作業以外の作業が多くあり、しかも、ある程度パソコンの知識がないと使いこなすことができなかったのです。さらに、複式簿記の知識があることが前提になっていて、ソフトをインストールして作業をしようとしても専門用語ばかりで結局使えずにそのままになってしまう会社も多かったようです。

 

これに対して、クラウド型会計システムはサービス提供会社のサーバーにあらかじめ設定されていて、経理担当者はインターネットブラウザのGoogle ChromeやMicrosoft Edge、Safariなどを使ってクラウドシステムにアクセスし、ログインをすれば経理作業を始めることができます。各データはクラウド上に保存されるため、自分でバックアップをする必要がなく、バックアップを取るような仕組みになっていません。システムのバージョンアップも自分ですることはなく、システム提供会社が行うため、バージョンアップを意識する必要はほとんどありません。

 

複式簿記の知識がまったくないと、間違いのない決算書を作るのは難しいですが、預金の画面や売上の画面から会計データを登録していく仕組みになっているので、日頃の作業に簿記の知識は必要ありません。普段Webページを見る習慣があれば、パソコンの専門的な知識も必要ありません。

クラウド会計の不安点と対処策

クラウド会計の不安点と対処策

 

このように万能そうに見えるクラウド会計ですが、複式簿記の基礎知識を持たずにただ登録作業をしてしまうと取り返しのつかない結果になることもあります。以下にその例を挙げます。

 

二重登録①

預金から現金を引き出した場合、複式簿記の仕訳は以下のようになります。

 

二重登録①

 

複式簿記では、この仕訳を仕掛帳に記載し、総勘定元帳の現金と普通預金に転記します。

 

これに対して、クラウド会計や簿記知識不要を売りにしている会計ソフトは、「現金出納帳」「預金出納帳」からスタートします。実際には、両帳簿から仕訳を作成する仕組みになっていて、システム内では複式簿記の仕訳データが作成されます。

 

この仕組みの場合、現金出納帳と預金出納帳の2つの帳簿関係を考えることなくそれぞれに入力してしまうと二重の登録になってしまい、残高が合わなくなってしまいます。複式簿記の基礎知識を持っていないとこの点が理解できないことが多く、結局使いこなせない場合も多くあるようです。

 

このミスを回避するためには、普通預金の登録作業が終わったらすぐに現金経費の登録を進めていくのではなく、現金出納帳がどのようになっているのかを確認して、預金から引き出しのデータがすでに登録されていることを確認してから、現金経費の登録を進めていきます。このような習慣をつけると、半年もすれば慣れて二重登録の心配はなくなるでしょう。

 

二重登録②

もう1つ二重登録の恐れがあるケースがあります。このケースは以前からの会計ソフトでも起きやすかったのですが、気が付きにくいこともあります。登録後何年か経ってから気が付いた場合には、さかのぼって修正するのに大変な手間がかかり完全な修正ができない場合もあります。

 

例えば、切手を買うために預金から5,000円を引き出し、引き出した現金で切手を買うようなケースです。この場合は、預金通帳やデータに現金引き出しの記載が残り、現金で支払ったときの紙の領収書が残ります。会計入力では、現金出納帳の画面で切手購入5,000円の入力をして、普通預金の画面でも切手購入が目的だったために、「現金引き出し」ではなく、「切手購入」という入力をしてしまったとします。

 

この場合、普通預金は二重入力になっていないため、残高は合います。しかし、経費である通信費は普通預金からの支払いと現金での支払いの二重で登録されてしまうため、経費の二重計上になってしまいます。

 

現金出納帳は、預金引き出しの入力がないため、残高はマイナスになっていってしまいます。この間違いを修正することは非常に大変で、経費の元帳で同じ時期の日付に同じ金額が出てこないかを探し、出てきた場合には入力が本当に二重になっているかを確認するために領収書との付け合わせをしなければなりません。一度すべてのデータを削除して最初からやり直すほうが早いのですが、決算を終えて翌期になってしまっている場合には、1つずつ確認しなければなりません。

 

正しい入力は、現金出納帳に入力をするだけです。以下の図と照らし合わせて見ていきましょう。クラウド会計システムの「現金(出納帳)」へ入力や登録をすると図の①のようになり、現金出納帳へ2つ入力をするだけで、②のデータベース的な役割の「仕訳日記帳」へ登録されます。「預金出納帳」の画面で確認をすると、仕訳日計表から普通預金にかかわる内容だけが表示され、③の内容が表示されることになります。

 

二重登録②

 

データの登録ミス

これは複式簿記とは関係ありません。クラウド会計では、ネットバンクなどから読み込んだ未登録のデータに勘定科目をつけて本登録をする作業があります。この作業は登録ボタンを押していくという単純作業なため、勢いでボタンを押していくと、勘定科目がまったく違うことにも気が付かずに登録してしまうことがあります。

 

普通預金などの貸借対照表で残高を確認していく勘定科目に登録されていれば気が付きますが、貸借対照表でも確認作業をしにくい勘定科目や、消費税の取り扱いの違う勘定科目に登録されてしまうと気が付かず、間違ったままになってしまうケースもあります。本登録をする際にパソコンの大きな画面で、横にデータ内容を表示して確認していく場合には、見間違いが発生する危険性が高いので注意が必要です。

 

登録漏れ

意外と多いのが登録漏れです。領収書を見ながら会計入力をしていく場合に、避けなければいけないこととは言え、入力漏れが起きてしまうことがあります。ただこの漏れは単純なものなので、領収書の金額を電卓で計算しておくなど、漏れが発生しないような対策が効果的です。

 

しかし、クラウド会計システムでは、領収書をスキャナーで読み取って自動的にアップロードしたり、スマホで写真を撮って自動的にアップロードしたりします。ここで、スキャナーで読み取る際に領収書が重なって読み取られてしまったり、スマホで写真を撮ってアップロード作業を行っても、アップロードが完了できないままになることがあり、すべての経費が会計システムにアップロードされないことが起き得ます。作業中はスムーズにいっているように思えても、領収書の枚数を数えてみるとすべてアップロードされていないということが実際に起きています。また、サービスが提供された当初は、同じ写真が二度登録されていることもありました。

 

これを回避するためには、領収書の枚数を数えておくことや、電卓で合計額を出しておくことが考えられます。しかし、アップロードして登録作業をするときに、ほかから入ってきた電子マネーのデータも一緒に登録画面に出てくると、どのデータが自分で写真からアップロードしたものかわからなくなり、電卓合計とのチェックができなくなる場合もあり得ます。

 

このあたりは今後クラウド会計の提供側で改善されていくと考えられますが、あまりにクラウドシステムを信じて確認を怠ると、このような「登録漏れ」や「二重登録」に気が付かなくなってしまいます。ミスなく登録するためにも自分なりのチェックの仕方を見つけておきましょう。

まとめ

法人の経理を受け持つ場合には、やはり複式簿記の基礎は勉強しておくほうがいいでしょう。この先クラウド会計システムが洗練され、簿記の知識も必要なくシステム的にも完全に信頼できるようになり、さらにユーザーのミスをシステム側で発見するようになるまではそれなりに時間がかかるでしょう。それまでは、システムに頼り切ることなく「会計作業の便利なツールの1つ」くらいに考えておき、複式簿記の基礎知識をもって確認できるようにしておくことが大切です。

 

執筆者:須栗 一浩 税理士 税理士法人エムエスオフィス 代表

1995年に税理士登録し、これまで個人法人の関与先クライアントは500件をこえる。個人事業の開業から、法人設立、相続税まで含めたトータルのコンサルタント業務をおこなう。企業のICT化も推進し、クライアント企業への導入も進めている。ファルクラム租税法研究会研究員

 

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