所得税と法人税の課税の違い

所得税と法人税の課税の違い

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起業をするときに、個人事業主として始める場合と株式会社などの法人で始める場合があります。個人で事業を始めて、事業が軌道に乗ったところで法人化するケースも多いと思います。個人に比べて法人は、税金面のメリットや先を見据えた事業の安定などが期待できると言われます。法人化はどんなケースでもメリットがあるのでしょうか。今回は、会計面や税金面から法人と個人の違いについて説明します。

所得税と法人税にはどのような違いがある?

所得税と法人税にはどのような違いがある?

 

所得税と法人税の違いについて、大きく3つに分けて紹介します。

 

1. 会計面での違い

日々の事業の取引を記帳する方法として、「複式簿記」があります。複式簿記を使って、日々の取引の仕訳を記帳し、その仕訳を集計して、貸借対照表や損益計算書などが出来上がります。

 

法人の場合

法人の場合は、決算時期に決算報告書を作成し、株主総会などで承認を受け、会社外部の利害関係者へ決算資料として開示します。決算の公告は、株主だけでなく、これから株式の購入をする投資家や融資をしている金融機関、そして取引をしている会社にとっても重要な情報になります。
法人は決算結果を公にすることが義務になっているため、正確な会計処理に基づいた決算報告書が必ず要ります。さらに、同族会社などで、社長の個人的な支出があった場合には損金にならずに貸付金となり、会社へ返済をしなければ残高が残ったままになります。

 

個人の場合

これに対して個人の場合は、複式簿記による会計処理は義務ではありません。個人事業の場合は1月から12月まで収支を計算し、確定申告書を作成します。事業所得や事業的規模の不動産所得などは、確定申告書を作成する際に複式簿記を使って貸借対照表を作成し、期限内に提出すれば、55万円(2022年現在)の青色申告特別控除を受けることができます。

 

しかし、個人の確定申告書は公開するものではなく、重要な個人情報として守られ、本人の許可なく融資を受ける金融機関などの一部の利害関係者以外へ提示されることもありません。

 

また、個人の場合には「出資金」という概念はなく、会計処理では、資本金にあたる部分は「元入金」という勘定科目を使い、事業とは関係のない入出金の際に使用する事業主勘定や青色申告控除前の所得と元入金は期首の会計処理で相殺され、元入金に集約されます。

 

したがって、元入金は会社の資本金とは異なります。また、個人的支出や事業主個人からの借入れは、「事業主貸」もしくは「事業主借」という勘定科目を使い、その後相殺されるため、残高は残りません。

 

さらに、青色申告特別控除は事業所得や一部の不動産所得などに限られるため、それ以外の所得は複式簿記によって貸借対照表を作成しても青色申告特別控除を受けられません。そのため、所得税で複式簿記を使うケースは一部に限られます。

 

2. 法人税の損金と所得税の必要経費の違い

法人と個人では、税金の計算上で必要経費(法人税上では「損金」と言います)にできる内容も異なります。

 

法人の場合

営利事業を目的としている法人は、経済的かつ合理的に活動することが前提になっており、損金として支出したものの多くは法人税を計算するうえで損金として認められています。損金にできない経費は、法人税法上で損金にできないと規定された税金や、別途計算が必要となる交際費や寄付金、あらかじめ届け出をしていない役員賞与などがあります。

 

個人の場合

これに対して個人の場合は所得の区分があり、各所得を要するために直接かかった支出は必要経費として認められます。事業所得の場合は、その年の売上を上げるためにかかった直接的な経費と、事業を行っていく上で維持管理などにかかる経費のみが必要経費として認められます。

 

個人的な支出と混じって支出されるものは、明確に区分できる場合にのみ必要経費として認められます。例えば、将来の仕事にする見込みで支出した資格を取るための費用は、必要経費としては認められません。

 

3. 課税方法の違い

最後に、課税方法の違いについて解説します。

 

法人の場合

法人の場合は、会社の決算で計算された利益に対して、法人税・事業税・住民税などが課税されます。法人税などは、すべての売上からすべての損金を差し引いた利益をもとに計算されるため、売上の内容によって課税が変わることはありません。

 

個人の場合

これに対して個人の所得は、所得の内容によって以下の10種類の所得に分類されます。
給与/事業/利子/配当/譲渡/不動産/一時/退職/山林/雑

まず、各所得ごとに収入と収入を上げるために直接かかった必要経費を差し引いて所得を計算します。総合所得となる所得は合算して所得税を計算するのに対し、分離課税はその所得内で合算するか、収入があった都度に税額を計算します。

 

譲渡所得は、不動産の売却は分離課税として計算しますが、自動車の譲渡は総合課税に分類され、確定申告で他の所得と合算します。
さらに、利子所得のうちの預貯金の利子は源泉分離課税とされ、利息が付いたときに20.315%(2022年現在)が源泉徴収され、納税が完結するため、確定申告の必要がありません。

 

事業所得は総合所得に分類され、事業の売上から必要経費を差し引いて事業所得を計算し、総合課税のほかの所得と合算します。
事業所得は、事業として行っている所得のみが事業所得になります。例えば、事業で使用していた車を売却した場合には、減価償却費を事業所得の必要経費にしていた場合でも、事業所得ではなく、総合課税の譲渡所得として計算します。

 

また、事業所得とほかの所得の区別が難しい場合もあり、その活動が事業的規模として行われていない場合には、事業所得ではなく、雑所得などほかの所得に分類されることもあります。その場合には、青色申告特別控除を受けることができません。

 

また、特例として税率などで優遇されている所得もあります。不動産を売却した場合には、分離課税としてほかの所得とは別に計算され、所有期間が5年を超える不動産を売却した場合には、税率も国税15%+地方税5%(2022年現在、別途復興特別所得税が必要)です。また、上場会社の株式の譲渡は、証券会社などで取引した場合で、特定口座で源泉分離課税ありを選択すると確定申告は不要になり、証券会社の口座内で年間の所得合計を計算し、納税を完結することができます。

 

個人と法人のどちらが有利になるかはケースバイケース

所得税には、このような特例が多くあるため、多額の利益(所得)が発生しがちな不動産の譲渡は、税金面で法人で所有するより個人で所有したほうが有利な場合があります。

 

また、株の売買を法人で行う場合、売却時の利益(損失)を計算するために売却した会社の株式の簿価の計算が必要になるため、通常の帳簿以外に台帳を作成しなければなりません。この台帳作成と簿価を把握にかなり手間がかかるうえに、ほかの利益と合算して法人税等が課税されるため、税金的にも不利になることがあります。

 

ただ、通常事業などの損失に合わせて含み益のあった株式を売却することで、損失の穴埋めをすることができます。この場合は損失と売買利益を相殺するので、法人税は少なくなります。

まとめ

法人税は複式簿記による決算書類の作成が完了して利益が確定すれば、特別な場合を除き、法人税等の計算はそれほど難しくありません。また、所得税と違って累進課税制の累進度も大きくありません。

 

さらに、各期の利益は繰越利益金として加算されていくため、創立からどれだけの利益を上げてきたかを確認することも容易です。計画的に事業を進める場合には法人を選択したほうが有利になる場合が多いでしょう。

 

個人事業を法人化する場合には所得税と法人税の違いを理解し、すべての所得が法人に向いているわけではないことを頭に入れておくことも重要です。

 

執筆者:須栗 一浩 税理士 税理士法人エムエスオフィス 代表

1995年に税理士登録し、これまで個人法人の関与先クライアントは500件をこえる。個人事業の開業から、法人設立、相続税まで含めたトータルのコンサルタント業務をおこなう。企業のICT化も推進し、クライアント企業への導入も進めている。ファルクラム租税法研究会研究員

 

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