自宅兼オフィスを事業所得の経費にするメリットと注意点

自宅兼オフィスを事業所得の経費にするメリットと注意点

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2019年末からのコロナ禍で仕事のテレワーク化が進みました。オンライン会議の増加やオフィスパソコンのリモート接続、政府が進める脱印鑑化などにより、「仕事はオフィスでするもの」というこれまでのイメージは覆りました。今や仕事をする場所を選べる時代になってきています。とくに自営業の場合、借りていたオフィスを解約し、自宅をオフィスとして使用するようになった方もいるのではないでしょうか。事業所得の確定申告をしている場合は、自宅をオフィスとして使用した場合、何が経費にできるのかは大きな関心事だと思います。今回は、主に自己所有の自宅をオフィスとして使用した場合に、事業所得の経費にできるものは何か、またその際の注意点について説明します。

個人事業主の経費

個人事業主の経費

 

所得税で経費にできるものは、業務遂行のために直接必要な支出です。具体的には売上を上げるために直接かかる商品の仕入や原材料などの売上原価、事業を行っていく上で必要な一般管理費や販売費などです。所得税の経費は、個人的な支出と仕事のための支出を明確に区分する必要があり、区分できる支出のみを経費にすることができます。
業務遂行のために直接必要な経費には以下があります。オフィスの家賃、水道光熱費や電話代などの通信費、家財にかける火災保険料などです。そのほか、仕事でかかった交通費、従業員の給料や福利厚生費用、仕事に必要な書籍代、文具などの消耗品費など。取引をしている会社への手土産や接待などの交際費も経費にすることができます。

自宅兼オフィスにかかわる経費

自宅兼オフィスにかかわる経費

 

個人事業をしていると個人的な支出と仕事上の支出が混ざった支出があります。所得税の経費にする場合には、明確な根拠を持って個人的な支出と仕事上の支出に分けなければなりません。
今回取り上げる自宅兼オフィス(以下、自宅オフィス)に関しても、この2つが混ざった支出(以下、混合した支出)が多く出てきます。これを明確な基準を持って分けることで、一部を経費として事業所得の収入から控除することが可能です。

 

主な按分計算には次のようなものがあります。

 

面積按分

仕事用の部屋が分かれている場合には、建物全体の面積に対する仕事部屋の面積の割合を使い、混合した支出を按分する方法があります。この場合、仕事用の部屋の面積に対応する金額を経費として計上することができます。

 

時間按分

1日(24時間)の中で仕事をしている時間とそれ以外の時間の割合を用いて、支出を按分することも可能です。

 

使用量按分

使用量の割合で按分する方法もあります。たとえば自動車の場合、仕事で使った走行距離を測って、総走行距離との割合で按分をすることもできます。

自宅オフィスで事業経費にできるもの

自宅オフィスで事業経費にできるもの

 

では、自宅オフィスでは、どのような按分で経費を計算することができるでしょうか。

 

通信

仕事用に電話を引いている場合には、全額が経費として計上できます。しかし、「光回線を引いて仕事用に電話とインターネット通信(Wi-Fi)を使い、プライベートでもWi-Fiは使っている」といったこともあるでしょう。この場合、Wi-Fiの料金部分はプライベートと仕事に按分する必要があります。このようなケースでは時間按分が適用しやすく、仕事で使用した時間をもとに明確に按分できるように根拠資料を作っておくといいでしょう。

 

建物

自宅を自己所有している場合には、建物に関しては減価償却費の計算をして、仕事使用分を減価償却費として経費にすることもできます。この場合の按分は、面積按分で計算するのが簡単です。仕事使用の部屋をプライベートでも使用する場合には、仕事とプライベートの使用時間でさらに時間按分するといいでしょう。固定資産税は、減価償却費と同様の按分方法で計算して経費に計上しましょう。
なお、「自己所有の自宅をオフィスとして使用する場合、家賃相当額を経費にすることはできないか?」という質問をよく受けますが、支払った側と受け取った側が同じ人になってしまうため、このような計算方法で経費にすることはできません。

 

水道光熱費

水道光熱費は、使用メーターを仕事用とプライベート用で分けているケースを除き、やはり按分計算が必要です。テレワークの場合には、パソコンを使用して仕事をするケースがほとんどだと思われるので、電気代は時間按分をするといいでしょう。ガス代や水道代は、仕事での使用はそれほどなく、プライベート使用のほうが多いと想像できるので、電気代と同じ割合での経費計算は難しいでしょう。経費計上をする場合には、時間按分をメインに別の按分計算などを編み出してください。

 

自動車

自宅に関わるもの以外では、自動車があげられます。テレワーク中に、取引先や銀行に出向いたり仕事用品を購入したりする際に自宅の自動車を仕事用に使うケースもあるでしょう。その際には、総走行距離と仕事使用時の走行距離を測っておき、使用量按分によって、経費の計算をするといいでしょう。ガソリン代や自動車の減価償却費、自動車税などの自動車にかかる支出を按分し、経費として計上することができます。

 

自宅が借家だった場合の家賃の扱いは?

今回は持ち家のケースを取り上げていますが、自宅が借家で家賃を払っているケースも多いと思われます。その場合には、上記で説明した面積按分や時間按分を使って家賃を按分して経費にすることができます。
また、借家の場合、下記で説明するデメリットについては基本的には関係ありません。

自宅オフィスで経費計上した場合に生じ得るデメリット

自宅オフィスで経費計上した場合に生じ得るデメリット

 

自宅オフィスで経費計上した際、ほかの税金にデメリットが発生するケースがあります。ここでは、主な注意点について解説します。

 

住宅ローン控除に制限がかかるケース

住宅ローン控除は、マイホームを借入金で購入した場合に、借入金の年末残高の一定割合を所得税から控除できる制度です。2021年に申請した場合は、ローン残高の1%(最大50万円)を13年間控除できます。毎年の減税額が大きいため、住宅購入の際にはほとんどの方が検討する制度です。

 

しかし、自宅オフィスとして面積割合で仕事使用部分を経費として計上している場合には、住宅ローン控除額が制限されるケースがあります。全体に対するオフィスの使用面積割合が50%を超える場合には、住宅ローン控除の対象外になり、住宅ローン控除の適用を受けられなくなってしまいます。

 

オフィス使用面積割合が10%未満の場合には、住宅ローン控除を全額控除することができます。また、10~50%の場合には、住宅ローン控除の控除税額も面積按分で計算することになります。
住宅を購入して数年経ってから、気が付かずに事業所得の経費として自宅オフィスの経費を計上してしまうと住宅ローン控除の適用を全額受けられなくなり、修正申告をすることになってしまうので注意が必要です。
住宅ローン控除は適用条件やローン控除の種類が多いため、住宅を購入する際には対象になるかどうかよく確認しておきましょう。

 

消費税課税事業者と自宅オフィス売却

事業をしていて、消費税の課税対象になる売上が年1,000万円を超えた場合には、翌々年から消費税の課税事業者になり、消費税の申告と納税が必要になります。

 

消費税の課税事業者が居住していた自宅建物を売却したとしても、居住用建物の売却は消費税法上で非課税とされているため、消費税の納税は発生しません。また、売却をした年の課税売上に影響をしないため、新たに課税事業者になることもありません。
しかし、自宅オフィスの場合には扱いが変わります。まず、消費税の課税事業者である方が売却をした場合、オフィス部分の建物の売却は非課税にはならず、消費税の申告と納税をしなければなりません。買い主から徴収して納税を行えるなら特に問題はありませんが、売却時の代金に消費税を加えられなかった場合には、納税だけが発生することになってしまいます。
また、消費税課税事業者ではなかった方が自宅オフィスを売却した場合、オフィス建物部分は消費税の課税売上に加えなければなりません。その結果、課税売上が1,000万円を超えてしまい、翌々年は消費税の課税事業者になり、申告と納税をしなければならなくなるケースもあります。

 

消費税の課税事業者になると、消費税を集計したり、書類を管理するための経理作業量が大きく増えたり、事務負担が大きくなります。もし、自宅を売却する可能性がある場合には、自宅オフィスとして経費を計上しても損にならないかどうかのシミュレーションを行うことをおすすめします。なお、土地の売却はそもそも非課税扱いのため、この注意点には関係ありません。

 

譲渡所得と相続税の特例

自宅オフィスの注意点は、それだけではありません。譲渡所得や相続税では、居住用にしていた不動産に関する優遇特例があり、特例を適用することで税額をかなり低く抑えられます。
譲渡所得には、居住用財産を売却したときの3,000万円控除という特例があり、譲渡利益が発生しても、そこから3,000万円を控除できます。しかし、自宅オフィスを売却した場合、オフィスに該当する面積はこの特例を適用できず、3,000万円を面積割合で按分し、3,000万円から減額しなければなりません。ただし、住宅ローン控除と同様に居住用割合が90%以上である場合には、全額控除できます。

 

相続税では、被相続人が居住していた土地などについて小規模宅地の特例があり、要件を満たした場合には、対象の土地等の評価を減額できます。小規模宅地の特定居住用の特例が適用できると、一定面積までは評価額の80%が減額になるため、相続税額は大きく減らすことができます。しかし、この特例は自宅部分のみが対象になるため、自宅オフィスの面積按分等で経費計上をしていた場合には、オフィス部分は居住用の扱いにはならず、小規模宅地の特例の特定居住用評価減を適用できません。
ただ、この特例は相続税の計算で適用をしない場合には関係なく、相続財産債務の合計が基礎控除以下で申告の必要がないケースや、そもそも小規模宅地の特例の適用を受けられない土地の場合には、自宅オフィスの経費を計上しても影響はありません。確定申告でオフィス部分の経費を計上する前に、譲渡所得や相続税の特例への影響がないかどうかのシミュレーションを行うようにしましょう。

まとめ

自宅オフィスの経費計上は、メリットもある反面、大きなデメリットになる可能性もあります。デメリットを回避するためには、確定申告で自宅オフィスの経費計上をする前に、必ずほかの税金への影響を検討する必要があります。デメリットになる注意点は、さまざまな税金に関わり、税額の変動も大きくなるため、あらかじめ税理士に相談することをおすすめします。

 

執筆者:
須栗 一浩
税理士

 

税理士法人エムエスオフィス 代表
1995年に税理士登録し、これまで個人法人の関与先クライアントは500件をこえる。個人事業の開業から、法人設立、相続税まで含めたトータルのコンサルタント業務をおこなう。企業のICT化も推進し、クライアント企業への導入も進めている。ファルクラム租税法研究会研究員

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